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北海道遺産 所在地域の今、これから vol.4
「上ノ国の中世のたて
[上ノ国町]
2001年の第1回選定で北海道遺産に選定された「上ノ国の中世の館(たて)」。
多くの出土品から見えてくる歴史と、まだまだ謎の多い「中世の館」跡の
将来的な保存・活用の展望に期待が高まります。

上ノ国では、上ノ国教育委員会の塚田直哉氏にお話をうかがった。塚田氏は、上ノ国勤務19年をむかえる考古学者である。話をお聞きした場所は、上ノ国館調査整備センター。旧上ノ国中学校の木造校舎を1996年から利用している埋蔵文化財のセンターである。
このセンターがすごい。これまで上ノ国の発掘調査で出土した十万点以上の遺物の整理作業と、それら遺物が保管されている。内部を見学させてもらうと、その整然とした資料整理状況に驚く。これまで、世界中の考古学研究所や埋蔵文化財センター等を見学してきたが、大量に出土する遺物の整理作業と保管・管理は、どこも苦労している。ここのセンターは、保管箱に数字が丁寧にふられていて、どの遺跡から出土したもので、外側からも保管物がどのようなものか、すぐにわかるようになっている。感心して塚田氏に伝えると、

「それは、うちの作業員の方々がすごいんですよ」

と嬉しそう。なるほど。確かに訪問時にも、地元の作業員の方々がテキパキと寒空の下、整理作業をしていた。上ノ国館調査整備センターは、優秀な地元の人々(これは国内の埋蔵文化財センターでありがちだが、ほとんどが女性)によって支えられているのだ。

整理作業に従事するスタッフ。

中世という時代

上ノ国訪問では、ガラス玉類を研究している田村朋美氏(奈良文化財研究所)と高橋美鈴氏(様似町教育委員会)に同行することができた。今回、両氏が上ノ国から出土したガラス玉調査をおこなうというので、喜び勇んで同行した次第である。ガラス玉は、その時代の流通ネットワークの重要なヒントをくれる。例えば、私が研究する東南アジアでは、引き伸ばし法で製作されたインド・パシフィックビーズといわれるガラス小玉が紀元前3世紀から17世紀頃まで流通する。これらのほとんどは、アルカリケイ酸塩ガラスである。巻き付け法によるガラス小玉は、中国巻き付けビーズといわれるカリ鉛ガラスであり、12世紀頃より中国から大量に東南アジアに流入したといわれる。この中国の巻き付けビーズは、日本国内でも多く見つかるが、12世紀頃には日本産のカリ鉛ガラスもみつかるようになっている。このように、ガラス玉の成分分析、そして製作法をみていくことで、そのガラス玉がどこからもたらされたのか知る手がかりとなる。
上ノ国では、旧石器時代から人々の営みがみられ、遺物も出土しているが、圧倒的に出土品が多いのは、花沢館、洲崎館、勝山館の3つを中心とする中世の館(たて)跡である。ガラス玉も、これら中世の館から出土、さらにアイヌ民族資料としても残されている。中国、朝鮮、琉球、ベトナムなどからもたらされた陶磁器、鉄製品、銭貨、ガラス玉などの出土品は、この地域が交易の拠点であったことを示している。ガラス玉からみえてくる北方の交易。田村、高橋両氏の研究成果がまたれるところである。

日本海と天の川を望む勝山館跡。

甦る上ノ国の中世

北海道遺産として、さらに国の史跡としても登録されている「中世の館」であるが、まだまだ全体の発掘が進んでいるわけではなく、謎も多い。塚田氏に、将来的なこれら遺産の保存・活用について聞いてみた。

「地域の人たちと勝山館の復元とかできたらいいですね。みせることの意義は大きいと思います」

現在勝山館については、勝山館ガイダンス施設と駐車場が整備されており、そこから見学者は、ゆっくりと史跡をみながら下っていく約40分の見学ルートが設定されている。高台に位置する墳墓群の合間をぬって下っていくと、勝山館中心である建物群、鍛冶作業場跡、櫓門などの平面のみが復元されており、その規模がわかる。しかし、これら建物群が復元されたら圧巻の光景だろう。ものすごく大変だと思うが、ロマンはある。
町では、有志により「上ノ国 昔踊り」が2019年に30年ぶりに復活された。10~15名でおこなう槍なしの演舞のような踊りである。中世にその起源を辿ることができるというが、真相は不明である。しかしながら、「みせる中世」という意味では町の観光政策とともにこれで地域が活性化されたら面白いと思う。

個人的に期待したいのは、博物館建設である。現在の道南の中心的博物館は函館に集中しているが、道南の日本海側は、重要な交易ルートとして多くの歴史的史跡が残る。上ノ国館調査整備センターに保管されている出土品だけでもかなりの数にのぼる。上ノ国だけではない、道南日本側を代表するような博物館の建設を期待したい。
幸いなことに、2021年、町の教育委員会には、新たな学芸員として佐藤貢平氏が着任した。学生時代に「花沢館跡」も発掘したことのある若手考古学者である。ベテランの塚田氏と新たな戦力の佐藤氏。この2名を中心に、上ノ国、ひいては道南日本海側の遺跡保存・活用の形が変わっていくのかも、とワクワクする。

勝山館跡で発掘調査をする佐藤貢平氏。

[Text:田代亜紀子]

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